第20話|永遠の命~ニコデモに教える【はじまりに還る路】

小説

第三章 西暦三十年

第一節 春

第二項 永遠の命~ニコデモに教える

過越しの祭りの熱気が、まだ街に残っていた。
春の夜気はやわらかく、昼間のざわめきが嘘のように、通りは静まり返っている。
イエスと弟子たちは、エルサレム近郊の村にある支援者の家に身を寄せていた。
石造りの家の中庭には、ほのかな灯りが揺れている。

「今日は人、多かったな……。」アンデレが壁にもたれて、息をついた。
「俺、あんなに病人が来るとは思わなかった。」ペテロも肩を回しながら笑う。「でもさ、あれ見たら信じるよな。普通。」
そのとき、戸口のほうで小さく物音がした。
皆が顔を上げる。
家の主人が静かに戸を開けると、外套で身を包んだ一人の男が立っていた。
夜更けにふさわしくない、どこか張り詰めた気配。
「……どなたですか。」家の主人が男に問う。
男は周囲を気にするように一瞬視線を巡らせてから、言った。
「イエスという方に、お会いしたい。」
弟子たちは思わず顔を見合わせる。
(こんな時間に?)
イエスは奥から静かに歩み出た。「わたしがイエスです。どうぞ、お入りください。」
男は一歩踏み入れ、フードをわずかに外した。灯りに照らされて、その顔が見える。
ヨハネは思わず息をのんだ。
(あの人……見たことある)
「……ニコデモだ。」ヤコブが小声でつぶやく。「サンヘドリンの……。」
男――ニコデモは、イエスの前に立つと、深く一礼した。
弟子たちはその場を離れ、中庭の奥へと下がった。
完全に聞こえないわけではない。だが、二人の間に流れる緊張に、踏み込むことはできなかった。

「なあ……。」
ヨハネが小声で言う。
「なんで夜に来たんだ、あの人。」
フィリポが肩をすくめる。「昼間は来れない立場なんだろ。」
中庭の灯りが、風に揺れる。
奥の部屋では、静かな対話が続いていた。

灯りを落とした家の一室で、二人は向き合っていた。
ニコデモはゆっくりと口を開く。
「ラビ……私たちは、あなたが神から来られた教師であることを知っております。神がその人と共におられなければ、あなたが行っておられるこれらのしるしを行うことは、誰にもできません。」
イエスは静かにうなずき、まっすぐに彼を見つめた。
「アーメン、アーメン、はっきり言っておきます。人は上から生まれなければ、神の王国を見ることはできません。」
その言葉に、ニコデモの眉がわずかに寄る。一瞬の沈黙のあと、彼は言葉を選びながら問い返した。
「……人は、すでに年を重ねていても、なお生まれることができるとおっしゃるのですか。母の胎に再び入って、生まれることができるとでも……?」その声には、イエスへの敬意を保ちながらも、どこか肩透かしを食らったような色がにじんでいた。
イエスは穏やかな調子のまま、言葉を続ける。
「アーメン、アーメン、はっきり言います。人は、水と霊から生まれなければ、神の王国に入ることはできません。
肉から生まれたものは肉であり、霊から生まれたものは霊です。
あなたがたは上から生まれなければならない――わたしがそう言ったからといって、不思議に思うことはありません。」

そのとき、外から風がひとすじ吹き込み、灯りの炎がかすかに揺れた。
イエスはその気配に目を向けるようにして、静かに言った。
「風は、思いのままに吹きます。あなたはその音を聞きますが、それがどこから来て、どこへ行くのかを知ることはできません。霊から生まれた者は、みな、そのようなものです。」
揺れる灯りの中で、ニコデモは言葉を失ったまま、イエスを見つめていた。そして、わずかに顎を引き、慎重に言葉を選ぶように口を開いた。
「今のお話ですが……それは、どのようにして起こり得るのでしょうか。」その声には敬意が保たれていたが、なお腑に落ちぬという色と、どこか若者を諭すような響きが混じっていた。
イエスは少し驚いて言った。
「あなたはイスラエルの教師でありながら、このようなことが分からないのですか。」そして、静かに彼を見つめて答えた。
「アーメン、アーメン、はっきり言います。私たちは知っていることを語り、見たことを証ししています。
それなのに、あなたがたは私たちの証しを受け入れないですよね。
私たちが地上で見聞きしたことを話しても信じないのであれば、天のことを話したとして、どうして信じられるでしょうか。
天に上った者は誰もいません。ただし、天から下って来た者はいます。すなわち人の子だけです。」そう言ってイエスは、地上で見聞きし得ることさえ受け入れようとしない人の頑なさを指摘した。
そして同時に明言された――
天のことを語り得るのは、天を知る者だけだということを。

夜気はさらに冷え、灯の火がかすかに揺れた。遠くで戸が鳴り、また静寂が戻る。イエスは言葉を継いだ。
「ちょうど、モーセが荒野で蛇を掲げたように、人の子も上げられなければなりません。それは、彼を信じるすべての者が、永遠の命を持つためです。
神はこの世をこれほどまでに愛され、独り子をお与えになりました。
それは、彼を信じるすべての者が滅びることなく、永遠の命を持つためです。

神がその子を世に遣わされたのは、世を裁くためではありません。
むしろ、彼によって世が救われるためです。
彼を信じる者は裁かれません。
しかし、信じない者はすでに裁かれています。神の独り子の名を信頼していないからです。

そして、これこそがその裁きです。
光がすでに世に来ているのに、人々は光よりも闇を愛しました。行いが悪いからです。
悪を行う者はみな光を憎みます。
自分の行いが明るみに出されるのを恐れて、光のもとへ来ようとしません。
しかし、真実に従って生きる者は光のもとへ来ます。
その人の行いが、神との関係の中にあってなされたものであることが明らかにされるためです。」

ニコデモは、言葉の一つ一つが胸の奥に落ちてくるのを感じていた。

それは単なる教えではなかった。
自分がどちらに立つのかを問う、光そのものの言葉だった。

挿絵・ビジュアル制作には、ChatGPT および Google Gemini を使用しています。

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