第四章 西暦三十一年
第一節 春
第五項 士官の僕を癒す
場所 ガリラヤ/カペルナウム
さて、イエスは、耳を傾ける群衆にご自分のすべての言葉を語り終えると、山から下って、カペルナウムに入った。
イエスがカペルナウムに入ったことは、「百人隊長」と呼ばれるある士官の耳にも届いた。――百人隊長とは、ローマ軍において約百人の兵士を率いている士官である。
「イエスというのは、…奇跡を行うという…その人物がこのカペルナウムに来ているのか。」
「はい、あの山でイエスの話を聞いていた者が言ってましたから。」
士官は、部屋の片隅に目をやった。そこには、ひどい病で苦しんでおり、今にも死にかけている一人の僕がいた。彼はその百人隊長にとって大切な人であった。
「なんとかして、そのイエスという人物に来てもらえないだろうか……」
百人隊長は思案していた。
カペルナウムに赴任して以来、彼はこの町のユダヤ人たちとも穏やかな関係を築いてきた。とりわけ、町の長老たちとは、日頃から顔を合わせる機会も多かった。
「長老の皆さん。お願いがあります。」
事情を聞いた長老たちは、顔を見合わせた。
「イエスという方のことですね。私たちが話してみましょう。」
「本当ですか……。助かります。」
「あなたは、私たちの民族のために会堂まで建ててくださった方です。このくらいのことは、喜んでいたしましょう。」
「ありがとうございます。どうか、私の僕のために……」百人隊長は深く頭を下げた。
長老たちはすぐに、イエスのもとへ向かった。
長老たちはイエスのもとに来ると、真剣に嘆願しはじめた。
「あの方は、このことをしてくださることが、ふさわしい人です。なぜなら、彼は私たちの民族を愛しており、彼自身が私たちのために会堂を建ててくれたからです。」
イエスに願い出る長老たちの言葉に、弟子たちは思わず顔を見合わせた。
「異邦人の家に、来てほしいって……?」
「よくもそんなことを頼めたものだな。異邦人の家に入るなんて……」
戸惑う弟子たちをよそに、イエスは穏やかに答えた。「分かりました。行きましょう。」
「え……本当に行かれるのですか?」
「はい。彼の僕を助けに行きましょう。」
イエスには、ためらう様子がなかった。
こうしてイエスは、ユダヤ人の長老たちと一緒に百人隊長の家へと向かった。
「もうすぐ、あの家です……」長老たちが前方を指し示した。
弟子たちは、遠くに見える街並み眺めた。
「……本当に入るのか?」「いや、まさか。外から様子を見るだけじゃないのか?」
そんな戸惑いを抱えた弟子たちをよそに、イエスは前を見据えて毅然と歩いていた。
そこへ数人の人々は駆け寄ってきた。
「イエス様ですか?」
「そうですが……」
「私たちは百人隊長の友人です。隊長からの伝言があります」
『主〈κύριος〉よ、煩わせないでください。私は、あなたが私の屋根の下に入ってくださるほどの者ではありません。
それゆえ、私自身も、あなたのところへ行くことをふさわしいとは思いませんでした。ただ、言葉でおっしゃってください。そうすれば、私の僕は癒やされます。
なぜなら、私自身も権威の下にいる人間であり、私の下にも兵士たちを持っています。
この者に『行け』と言えば、その者は行き、別の者に『来い』と言えば、その者は来ます。そして私の僕に『これをしろ』と言えば、その者はします。』」
これらのことを聞くと、イエスは百人隊長に驚き、そして、自分に従って来ている群衆のほうを振り向いて言った。
「アーメン、あなたがたに言います。イスラエルの中にさえ、これほどの信仰を、私は見いだしたことがありません。
しかし、あなたがたに言います。東の方々、西の方々から多くの人々が来て、天の王国においてアブラハム、イサク、ヤコブと共に食卓に着くでしょう。
しかし、王国の子たちは外の闇へ投げ出されるでしょう。そこで、泣き声と歯ぎしりがあるでしょう。」
そしてイエスは、その友人たちに言った。「行きなさい。」
そして、その遣わされた友人たちを通してして百人隊長に言った。
「あなたが信じたとおり、あなたのためになるようになりなさい。」
友人たちが家に戻ると、百人隊長が喜びに顔を輝かせて迎えた。
「僕が、元気になったんだ。あの死にかけていた奴が今はもう起き上がっている。」
「え、それはいつごろ??」百人隊長がその時刻を答えると、友人たちは顔を見合わせた
「その時刻だ……。あの方が『あなたが信じたとおりになるように』と言われた、その時刻と同じだ!」
そして、家の中に入り、すっかり健康になった僕を抱きしめ、ともに喜んだ。
本作に引用されている聖書の言葉・表現の着想は、King James Version(1769)、 SBL Greek New Testament(© Society of Biblical Literature, CC-BY 4.0)およびWestminster Leningrad Codex をもとにしており、翻訳補助に Google 翻訳等の機械翻訳ツールを使用しています。
挿絵・ビジュアル制作には、ChatGPT および Google Gemini を使用しています。
© 2026 Yurika Shiohara
Text and illustrations
by Yurika Shiohara


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