プロローグ

プロローグⅠ 救いの光
プロローグ I 救いの光
今から四千年余り昔のこと、現在のイラク南部にウルという都市があった。ウルは古代メソポタミア南部地域の重要な都市国家であり、ユーフラテス川がペルシャ湾に注ぐ河口そばに位置する都市であった。
そこに、アブラムという男性がいた。神はアブラムに言った。
「あなたの国、あなたの親族、あなたの父の家を離れ、わたしが示す地に行きなさい。わたしはあなたを大いなる国民とし、あなたを祝福し、あなたの名を大いなるものとしよう。あなたは祝福の源となるであろう。わたしはあなたを祝福する者を祝福し、あなたを呪う者を呪う。地球上のすべての家族は、あなたによって祝福されるであろう。」
ところで、アブラムはこのとき七十歳であり、十歳年下の妻サライと共にアブラムの父テラのもとにおり、亡くなった兄ハランの息子ロトも共にいた。アブラムの父テラはこの時二百歳という高齢であったが、家長としてアブラムに告げられた神の指示に従う決意をし、カナンの地に行くため、これらの者を連れて繁栄した都市ウルを出た。
一行は北西に九百六十㌔ほど進み、ハランという都市に着いた。そして、しばらくそこに留まり、テラはその地で亡くなった。二百五歳であった。
テラの死は、アブラムにとって一つの時代の終わりであった。
彼は家の者たちとともにハランを去り、ユーフラテス川を渡った。
カナンの地へ――神が示すと告げられた、まだ見ぬ地へ向かうためである。
それは紀元前千九百四十三年、後にニサンと呼ばれる月の14日であったと思われる。
このとき、五年前にウルの地で神がアブラムに語った約束――神と彼との契約が初めて効力を持った。
まさにこのとき「父の家を離れよ」という命が完全に実行されたからである。もはや途中で中断されることはない。アブラムは退路を断ち、約束だけを携えて、川の向こうへと足を踏み出した。
ほどなくしてアブラムは、カナンの地に到着した。しかし定住することなく、外人居留者として各地を巡り、天幕を張って暮らしていた。
そして、とうとう九十九歳になった。このときにおいてさえ妻サライには子がなかった。
その時、神は再び現れ、アブラムの子孫が多くなるという約束を改めて確かなものとして告げられた。神は彼に、「アブラハム――父は高められる、という意味を持つ名」を与え、また妻サライについては、「王妃」を意味するサラと呼ぶよう命じられた。
それから一年後、アブラハムが百歳、サラが九十歳のとき、約束の子が生まれた。その子はイサクと名付けられた。
こうして、「地のすべての国の民」に祝福をもたらすとされた約束の子孫~メシア~は、アブラハム、そしてその子イサクを通してもたらされることが明らかとなった。
しかしその約束は、この時代に始まったものではない。
それが最初に語られたのは、なおアダムとエバが地上に生きていた、アブラハムの時代を遡ること二千年余り前のことであった。

塩原百莉奏
Shiohara Yurika
旅と本をこよなく愛する書き手。 カフェでのスイーツと、猫の気ままな仕草が癒し。 ローカル電車で日本各地の絶景を巡る旅を計画中。
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