第12話|狙われるイエス【はじまりに還る路】

小説

第一章 メシアの誕生

第三節 西暦前一年

第一項 早春

狙われるイエス

数ヶ月が過ぎた。イエスは両親と共にベツレヘムの家ですくすくと育っていた。
首が安定し、支えれば少しの間座っていられるようになった、ヨセフが抱き上げるとしっかりと顔を上げて、きゃっきゃと笑い、近づいてきたマリアに向かって、その小さな手を伸ばし、指をぎゅっとつかむ。ヨセフはその様子を見て、ほほえんだ。

そのころ――。

ユダヤを治めていたのは、ローマ帝国に任命されたあのヘロデ大王で、すでに七十代半ばの老齢になっていた。
彼は、エルサレムの神殿を再建したことをはじめ、多くの建造物を建てる偉業を成す一方、非常に残忍な王としても知られていた。

そんなある日、東方から占星術師たちがエルサレムにやってきた。
「ユダヤ人の王として生まれた方はどこにおられますか。」
「わたしたちは、東方にいた時にその方の星を見たので、敬意を表するために来たのです。」
その言葉は、宮殿に届いた。
「……何だと?」
ヘロデは顔色を変えた。
“王として生まれた者”――その響きは、彼の胸をざわつかせた。

噂はあっという間に町じゅうへ広がる。エルサレムは騒然となった。

王はすぐに祭司長と律法学者たちを集めた。
「キリストはどこで生まれることになっている?」
彼らは巻物を開き、静かに答えた。「ユダヤのベツレヘムです。預言者がこう書いています。
『ユダのベツレヘムよ、あなたは決してユダの統治者たちの間で最も取るに足りない町ではない。
統治する者があなたから出て、私の民イスラエルの牧者となるからである』」。

「……ベツレヘムか…」ヘロデはうなずき、心の中で呻いた。すぐ近くではないか。いつ生まれたのだ…
そこでヘロデは占星術師たちをひそかに呼び寄せた。
「星は、いつ現れたのだ?」食い入るように王は尋ねた。占星術師たちは、記憶を手繰りながら答えた。
王はさらに尋ねた。「で、その子供の居場所は分かるのか?」
「我々も、その星についていけば、その王にお会いできると思って来たのですが・・・」
「ここまで導かれてきて、急に星が暗くなってしまったのです。」
王は彼らに伝えた。「律法学者たちに調べさせたところ、預言では、王はベツレヘムから出るそうだ。ぜひベツレヘムに行ってみてくれないか」
王はやわらかな声を作ってさらに言った。
「行ってその子をよく捜し、見つけたら報告してほしい。私も行って敬意を表したのだ。」

王の前から下がった占星術師たちはすっかり困り果ててしまった。
「とんでもない任務をおしつけられたな。」
「俺たち、ただ星についてきただけなのに・・どうすればいいんだよ。」
途方にくれて、宮殿を出た。夜空を見上げる。何と、東方にいた時に見たあの星が、再び輝いていた。
「あれだ……!」星は彼らを導くように再び進んだ。

そして、ついに一軒の家の上で止まった。占星術師たちは非常に喜んだ。
「ここだ!」彼らは胸を躍らせて中へ入った。
そこには、母マリアとともにいる幼い子どもがいた。
占星術師たちは、思わずひざまずいて、敬意を表した。「ぜひ、贈り物を受け取ってください。」
彼らは、宝物箱を開き、金、乳香、没薬を差し出した。

その夜――。

占星術師たちは宿屋にて夢を見る。
「ヘロデのもとへ戻ってはならない」
はっと目を覚まし、顔を見合わせた。
「別の道を行こう」「そうしよう」
こうして彼らは、来た道とは違う道を通り、ひそかに自分たちの国へ帰っていった。

一方、突然の来客に驚いたヨセフとマリアであったが、占星術師たちが去った後、天使が夢の中でヨセフに現れて、言った。

「起きなさい。この子とその母親を連れてエジプトへ逃げなさい。わたしが知らせるまで、そこにとどまりなさい。ヘロデがこの子を捜し、殺そうとしています。」

ヨセフは飛び起きた。迷っている時間はない。
「マリア、起きて。今すぐ出るんだ。」
「どうしたの?」
「この子が狙われている。エジプトへ逃げる。」

外はまだ夜。
冷たい空気が頬を刺す。ベツレヘムからエジプトまでは少なくとも百二十キロ。七日ほどの長旅だ。
しかも、腕の中にいるのは、生後四か月ほどの幼い子。

――急がなければ。

幸い、占星術師たちからの贈り物がある。どれも高価なものだ。これが、この逃避行とエジプト滞在を支えることになる。
季節はシェバトの月の下旬。現代でいえば二月上旬。厳しい冬がようやく緩み始める頃だった。

一方そのころ――。

「だまされたのだ!」ヘロデは激怒した。
占星術師たちが戻ってこないと知るや、顔を真っ赤にして命じた。
「ベツレヘムとその一帯にいる二歳以下の男児を、すべて殺せ。」
ユダヤの王は私だ、この王座は私の血筋の者が受け継ぐのだ!断じて他の者は許さない。
占星術者たちの言う星が現れた時からすると、予言されている子供は一歳以下であろうか・・。いや、確実に抹殺しなくてはならない。

兵士たちが動き出す。
泣き叫ぶ声が町に満ちる。
そのとき、預言者エレミヤの言葉が現実となった。

「エホバ〈יְהוָה〉はこう言われた。ラマで声が聞こえた、嘆きと、苦い泣き。ラケルはその子らのために泣いている。その子らのために慰められることを拒んだ、それは、彼が(彼らが)いないからである。」

ヨセフたちが無事エジプトに到着してからしばらく経った。
今年の過ぎ越しの祭りにはマリアとイエスはつれていけないな…などと考えているころである。

知らせが届いた。

――ヘロデ大王が死んだ。

ヘロデの死を受け、天使がエジプトにいたヨセフに夢の中で現れて言った。
「起きなさい。この子とその母親を連れてイスラエルへ帰りなさい。命を狙っていた者たちは死にました。」

翌朝、ヨセフはマリアに告げた。「帰ろう、マリア。」
こうして、「わたしはわが子をエジプトから呼び出した」という言葉が実現した。
一家はユダヤ地方のベツレヘムの居宅を目指した。ヨセフは神から託された子供を育てるにはダビデ王の町に定住するのがよかろうと思っていた。

しかし、道中、アケラオが父親のヘロデに代わってユダヤを支配していることを聞いた。その名を聞いて、ヨセフは顔を曇らせる。
「アケラオといえば、父親のヘロデ大王と同じく、残忍だそうだな。暴動鎮圧のためにとはいえ、神殿で三千人も殺したという話も聞く…。」そのつぶやきを聞き、マリアは不安そうにヨセフを見つめた。
ユダヤへ行くのは危険だ。

その夜、また夢の中で警告が与えられた。
――行くな。

翌朝、ヨセフは決断する。「ガリラヤへ戻ろう。自分たちの町ナザレに。」
神から託された子供は、ナザレにおいて成長していった。
強くなり、知恵に満ち、神の恵みの中で育っていった。

こうして「彼はナザレ人と呼ばれる」という預言者たちの言葉が実現することとなった。

挿絵・ビジュアル制作には、ChatGPT および Google Gemini を使用しています。

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